参考文献:不器男の一句(松野町教育委員会発行)
前書きに「仙台につく みちはるかなる伊予のわが家をおもへば」とあります。
不器男は東北大学時代、仙台に下宿していました。この句は夏休みの帰省後、再び仙台に戻った際詠んだ句です。
仙台に戻る途中、夜汽車の窓から雨に濡れた葛を見て物寂しさをおぼえ、遠くにある故郷の葛も雨に濡れているのだろうかと思いを馳せます。さらにそこに住む母をはじめとする家族にも思いを馳せ、故郷と自分との距離を改めて認識したのでしょう。
高浜虚子は『薄明るく浮かんだ夜雨の葛の前後の非常に長い部分は唯真暗で、一面に黒く塗ってあるばかりといったようなものでその黒い部分は故郷を思いやった情緒である』とこの句を絵巻物に例え賞賛しました。