不器(ウツワナラズ)
今月の不器男句
森の国俳句教室

23年度

印刷用ページを表示する 掲載日:2011年9月22日更新

9月

うちまもる母のまろ寝や法師蝉 

鑑賞・解説

 大正15年11月「天の川」巻頭、同12月「ホトトギス」掲載の句です。季語は「法師蝉」で秋。

 まろ寝とは寝巻に着替えることなくしばらく横になること、うたた寝のことです。

 夏の間の疲れが出たのか、母親が畳の上に横になっています。夏休みに帰省していた日々の一句でしょうか。

 不器男は6歳の頃に父を亡くしています。その後は、長男悌吉の力を得て母キチが不器男たちを育ててくれました。不器男は末っ子で特に可愛がられたことでしょう。『好きなように向いていけ』と自主性を重んじ、気丈に自分たちを育ててくれた母も年を取ったのだと感じます。「ジーーー」と鳴き終わる法師蝉の声がその寂しさをより深いものにし、親孝行の気持ち、感謝やいたわりの感情など母に対する愛情を思い起こさせます。

 参考文献:不器男の一句(松野町教育委員会発行)    

8月

さきだてる鵞鳥(がちょう)踏まじと帰省かな 

鑑賞・解説

昭和3年7月「天の川」巻頭、「ホトトギス」掲載の句です。「帰省」は夏の季語。

不器男が帰省した時のことを詠んだ句でしょうか。

長い道のりを旅しやっと故郷の町へ、そして我が家が見えてきました。思わずほっとします。早く家に入り、懐かしい家族の顔を見てひと息つきたいところ。すると門を入ったところで鵞鳥が近づいてきました。急げば鵞鳥を踏みつけてしまいそうです。この句にはそんな感情が行き交う様子がみえます。

 鵞鳥は家禽として古い歴史を持ち、童話や昔話にもよく登場します。ここでは不器男の帰省を歓迎するように足元にまとわりつく姿があたたかく愛らしく描かれています。

 参考文献:不器男の一句(松野町教育委員会発行)    

 

7月

にごり江を鎖す水泡や雲の蜂 

鑑賞・解説

 昭和2年7月の家族句会での句です。「雲の峰」は夏の季語。

 夏になると子ども達を連れて川遊びをしていたという不器男。この句もその中で出来た句かもしれません。

 にごり江は濁った入江や川のこと、雲の蜂とは激しい日射による上昇気流で出来る積乱雲のこと。むくむくと湧きあがり、時には成層圏にまで達することもある大きな雲です。また、雷を伴い、夕立を伴うこともあるので雷雲、夕立雲ともいわれます。対して、水泡ははかないもの、わびしいものの象徴。 

 内部に大きなエネルギーを蓄えた力強い雲と出来ては消えるはかない水泡、夏という季節の持つ対照的な情景が1句に詠まれています。

参考文献:不器男の一句(松野町教育委員会発行)    

 

6月

飼屋の灯母屋の闇と更けゆきぬ 

鑑賞・解説 

 昭和3年6月「破魔弓」巻頭の句です。「飼屋」とは蚕を飼うための小屋のことで春の季語。

 今ではほとんど見られなくなりましたが、明治から大正にかけて、蚕(かいこ)を飼ってその繭から生糸を作る産業は日本の輸出産業の一つでした。

 芝家は当時養蚕業を営んでおり、広い屋敷の敷地内に飼屋があって何人もの使用人がいたようです。繁忙期になると一晩中飼屋の窓に灯りが点き、作業する人々が忙しく働いています。それとは対照的に家人の住む母屋は明かりが消えて真っ暗で深い闇の中。

 光と闇、明と暗の対比を包みこんで夜が更けてゆきます。

参考文献:不器男の一句(松野町教育委員会発行)    

5月

中二階くだりて炊ぐ遍路かな 

鑑賞・解説

昭和3年5月「天の川」掲載の句です。「遍路」は春の季語です。

 当時は暖かくなると、白衣・菅笠(すげがさ)・金剛杖などを身にまとったお遍路さんを多く見かけました。お遍路は四国各所にある88か所の札所を数10日かけて歩きます。行程は約1,200kmあり徒歩で約40日かかる道のりです。

 そうしたお遍路を泊める宿を遍路宿といい木賃宿で、薪を提供し時には鍋などの調理器具を貸し出して宿泊代を決めていたようです。

 この句は、あるお遍路が宿の中2階の部屋から階段を下り、炊事場で食事の支度をする様子を詠んでいます。「くだりて炊ぐ」の中七音に一連の動作がよく表れています。

参考文献:不器男の一句(松野町教育委員会発行)             

4月

鞦韆(ふらここ)の月に散じぬ同窓会  

鑑賞・解説 

 昭和3年5月「天の川」掲載の句です。鞦韆(しゅうせん)とはブランコのことで春の季語です。不器男は「ふらここ」と読んでいたようです。

 同窓会は現代でも行われていますが、この時代はもっと質素で簡単なものでした。学校などの部屋を借り、地元の魚屋などから数鉢の仕出しを頼んでいたようです。不器男も母校での同窓会に参加し懐かしい話に花を咲かせたのでしょうか。楽しい時間もやがて終り散会となりました。外に出ると春の夜空に月が昇っています。そしてその柔らかな光を浴びたブランコ。旧友たちと楽しい時を過ごし、満足して帰路に就く不器男の心情が感じられます。                              

参考文献:不器男の一句(松野町教育委員会発行)                               

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